俺のバニーちゃん





 虎徹はベッドで肘をつき、隣で気持よさそうな寝息を立てる男を見つめた。  さっきまで獣が獲物を狩るような、荒々しいセックスを仕掛けてきた男と同一だなんて思えない、無垢な寝顔だった。  まるで性的な事など興味ない、縁遠いというような面で時折むにゃむにゃと唇を動かす様なんて、とても可愛くて堪らない。  オレンジの淡い間接照明の下で更に際立つ美貌は、日々目にしている虎徹とはいえつい見蕩れてしまうほど。  こういう時に改めて思うのだ。彼は何でおじさんでしかない自分なんかを欲するのか、と。  バーナビーが虎徹に抱く想いに偽りないことは、繰り返される営みの中で嫌というほど知っているし、大事にされている自覚だってある。  勿論虎徹だって言わずもがなだ。望めば何でも手に入るだろう男が何故虎徹を欲するのか……相棒から恋人となって  しばらく経つが、この謎は一向に解ける兆しをみせない。 「……これが、さっきまでがむしゃらに腰振ってた男とは思えねーよなあ」  終業後、後片付けをそこそこに引っ張られるがまま訪れたのは、昨晩も泊り込んだバーナビーのマンション。食事も風呂もすっ飛ばして  速攻ベッドに押し倒した時の、飢えに飢えてギラついた男の顔も嫌いじゃない。  だが、虎徹の言葉に耳を貸すことなく服を破りかねない勢いで裸に剥いて、食らいついてきたのは流石に頂けない。  付き合って半年、セックスなんて数え切れない程しているし、触れるのも触れられるのも満更ではないから異論なんてない、が。 「いい加減、労わって欲しいなーとか思ったりしてるんだぞ、バニー」  毎度毎度激しく濃厚な行為を求めるんだから、風呂や食事という基本的な営みくらいさせて欲しい。  ついでにセックスの頻度を三日に一回にして欲しいと思うのは虎徹の我侭だろうか。  結局のところ、彼が愛しいあまり身を許してしまう自分にも原因はある。  助長させるような真似さえしなければ、彼だってここまで聞き分けの無さを発揮することもないだろう。 「寝てても崩れないとか、イヤミすぎんだろ」  反対にみっともなく崩れてるだろう表情をそのままに笑みを零す。この顔で欲しいと迫られてしまえば拒否するなんて無理だった。  普段から何でもそつなく物事をこなす癖に、虎徹に対しては甘えに甘えて、縋り付いてくる姿に優越感を感じないはずがない。  メディアがこぞって商品として扱う『バーナビー・ブルックスjr』も、公私ともに近くでバーナビーを見ている虎徹に言わせてみれば、  彼の魅力の半分も出せていないと思っている。触れて初めてただのバーナビーとなった時の、とろけるような顔で「虎徹さん」と  呼んでくれる姿は、いつまで経っても胸がときめいてしまう。 (ま、これは俺だけの特権だ、うん)  にんまりと緩んだ唇で前髪ごと額に触れた。こんな事まで出来るのは、恋人である自分ただ一人だけ。  だからこそ、彼がまだ誰にも見せたことの無いだろう姿を見てみたいと思った。もとい、バーナビーが男を受け入れる姿を。 「……一度は挿れてみたいんだけど、バニーちゃん」  慣れちまえば最高なのに――眠っているとはいえ口に出すことは憚られて、内心ひとりごちる。  初めこそは普段の役割を越えて拓かれる激痛と羞恥から能力を使ってでも逃げ出したいと本気で思ったし、泣き叫び暴れた拍子に金の頭を  蹴り飛ばしてしまったりもした。丹念に解していたがゆえにまともに蹴りを食らったバーナビーは瞬間苛ついた表情を浮かべたものの  涙でぐしゃぐしゃに歪んだ虎徹を見てすぐに口を噤んだ。  責める手を止め、伸び上がっては宥めるような口付けを顔中に降らせた男の優しさに絆されて――ぴったり重なった下半身に驚いた。  下着越しとはいえ今にも暴発しそうな欲情が触れて、虎徹は「嫌だ」と言えなくなった。  己の欲情を置いて虎徹を第一に慮るバーナビーの想いが痛いほどに伝わり、これ以上好きにはなれないだろうと思っていたのに  呆気なく想いが限界を超えた。男同士のセックスがこれほど大変だったなんて、この日に向けて調べ尽くしていたらしい彼も想像していなかっただろう。  初めて一線を越えた日は、かれこれ一時間は尻を弄っていたと思う。  足を大きく開いて秘部をこれでもかと晒す間抜けな姿に萎える所か、興奮の果てに先走りまで下着に滲ませたバーナビー。  自分も男だから欲を堪える苦痛を理解している分、そうまでして欲しいと思ってくれている彼がいっそう愛しくなった。  改めて合意のうえで踏み切った行為なんだと伝えるべく、虎徹は金糸の張り付いた首へ腕を回した。  耳元で「悪かった」と囁いて密着すれば、肌と肌が擦れてじんと疼きが走った。瞬間、欲しいのはバーナビーだけでなく自分もなんだと  強い欲求がせり上がってきた。切実に欲しいと訴えるグリーンの瞳に、同様の熱が揺らめいているだろう自分のそれを重ねれば  険しかった顔が緩み、虎徹も笑顔を浮かべるくらいの余裕が戻ってきた。それからは双方の協力をもってどうにか繋がることが出来た。  快楽よりも苦痛が上回る、しかし互いへの想いに満ちた初夜から現在、もうペニスを擦って果てるだけじゃ物足りない所まで来ていた。  こっちの方も優秀だったバーナビーの手解きにより、虎徹の身体は彼好みに作り変えられてしまった。  恋しい男を後ろで受け入れ一緒に登りつめた先、熱い精で体内を濡らされなければ満足しない淫らな身体に。  時には身体と心が噛み合わず、自分ではコントロール出来ない快楽に戸惑うことはあれど、行為自体は悪いものではない。  一度は突っ込まれてもいいんじゃないかと、割と本気で件の彼にお勧めしてみたのだが「NO」と強く否定された為、未だ願望は心の中で燻るばかり。  穴があれば突っ込んで揺さぶりたいと思うのが男の性で、四十路前とはいえ正常な成人男性の身体を持つ虎徹は、まだまだ男盛りである。  何より中年のおじさんである自分よりも若く綺麗な顔立ちのバーナビーの方が、まだ様になるというもの。  別に誰に見せるわけではないのだが、やはりちょっとした負い目というのはあったりする。  いくら愛されていようが信じていようが虎徹が大雑把なタイプだとしても、バーナビーという完璧無比な男が恋人な限り、一人相撲は続くのだろう。 「なーバニーちゃーん、一度でいいから挿れてみたい」  小さな小さな声で伺うも、ぐっすりと夢の中に入り浸っている彼は当然のことながら眉ひとつ動かすことなく熟睡中だ。  調子に乗って前髪を軽く引っ張ったり頬をつついたり、鼻まで摘んでみるという子供っぽい悪戯に励んではみたがバーナビーは  身じろぎすらせずに横たわったままだった。 (あーこれは所謂据え膳ってやつ?)  虎徹の可愛い恋人は何をしても起きないうえ、無防備にもブランケットの下は黒の下着一枚だけのセクシーな姿。  バーナビーの言葉を借りれば「あなたがそんな格好をしているのが悪いんですよ、おじさん」状態で。  「……しょうがないですね、虎徹さん。優しくしてね?」  なんて、普段のバーナビーの声音を真似て一人ふざけた虎徹はブランケットを剥いだ。  露になる引き締まった肉体。日々トレーニングを欠かさない身体は上から下まで一切の無駄がなく、弾むような瑞々しい筋肉を包む白い肌も美しい。  均整の取れた肢体は同性の目から見ても感嘆の息が漏れる。が、虎徹にとっては涎が出そうになるほどそそられる、美味そうな肉体でしかない。  掌全体ですべらかな肌に触れ、綺麗に割れた腹筋の形を辿る。少しだけひんやりとした体温に、さっきまでのセックスの名残などはなかった。 「よいしょっと、まだ起きるなよバニーちゃん」  バーナビーの身体を跨ぐようにして腰に乗り上げる。グレーの下着に覆われた尻が張りのある大腿に引っ付く。  騎乗位でやることもあるから美貌を見下ろすのは慣れたものだが、今回は立場が違う。  虎徹が食らい、バーナビーが骨までしゃぶりつくされる側だ。意識ひとつ違うだけで目新しくなる光景。過ぎ去ったとばかりに思っていた興奮が  じわりと身体の奥深くから滲み出てきて、虎徹はぶるりと震えた。  まずはキスからがセオリーだろうと、ゆっくりと身体を傾げて、寝息が漏れる唇に自分のそれを重ねた。  押し付ければ跳ね返すような弾力が唇を甘く痺れさせる。擦りつけるように何度も角度を変えては触れ、ちゅっと吸い付いていると  すぐに乾いた接触だけでは物足りなくなった。 (べろちゅーしたら起きるかな……)  うずうずする自分の唇をぺろりと濡れた舌先で宥めつつ、歯止めの利かない欲望を持て余す。  すると決めた以上、今更後に引く気もないが少しばかり戸惑ってしまう。  どうしようか、しかし逡巡は一瞬だった。  悪戯の延長で形のよい唇を指先でつついた拍子に覗いた、赤い粘膜を見てしまえば我慢など出来るはずがない。 「……えっろ」  再び唇を押し付ける。触れたままの指先で口腔への道を作って、淫らな欲を乗せた舌先を忍ばせた。  身勝手な侵入にすら興奮は煽られ、ぬめる粘膜に到達したと同時に吸い付いた。  既に虎徹の中にはバーナビーが起きてしまうんじゃないかという懸念は無い。口腔に満ちる、とろとろの唾液を啜るのに夢中だった。 「っ、ん……んん……」  じゅるじゅるとはしたない音を立てながら彼の唾液を余す事無く飲み下してゆく。何度も何度も嚥下しては、流れ落ちるとろみの感触を味わう。  バーナビーを食らっているかのような一種の背徳めいた悦楽が、唾液とともに腹に溜まる。  奥底でうねりだす欲望は「どちら側」なのか、唇を貪る虎徹には知りようがなかった。 (もの、足りないな……)  身体と心を甘く溶かし翻弄するキスを知っているだけに一方的に触れて啜るだけの、まるでオナニーのようなキスで満足出来るはずがなかった。 「バニぃ……」  キスの余韻で震える声が掠れていた。  互いの顎を唾液でべちょべちょに汚しながら貪るあの熱いキスが欲しい。存分に舐めたいし、舐められたい。  バーナビーは未だ深い眠りの中。反応のないキスがこんなにもつまらないものだったなんて、思いもしなかった。 「思い出すだけでキちまうのに……」   腰を抱いて引き寄せるだけじゃ足りないと、後頭部に回した掌で更なる接近を求めてくるバーナビーの口付けは最初こそ優しいものの  粘膜を重ねた途端豹変する。ぐっと奥深くまで分厚い舌を捩じ込んで来ては満遍なく舌で愛し性を与え、苦しいと訴える苦痛の表情すら  快感だと言わんばかりに意地悪く笑う顔はヒーローとは程遠い、悪い顔。  ハンサムだからって何をしたって許される訳じゃないんだと、怒りを込めて背中を滅茶苦茶に叩いたって許してくれない。  幾度も抱いているからこそ虎徹の限界を知っているバーナビーは、ギリギリのラインへ達してはじめて解放してくれる。 「あの、糸引く瞬間がえろいんだよなあ……」  興奮でびしょびしょな瞳を見つめながら唇を離した際の、ねっとりと絡んだ何本もの唾液の糸で最後まで繋がっているあの一瞬が、  虎徹の怒りを彼方へ放り投げてしまう。脆弱な透明の繋がりが途切れぬうちに、逞しい首へ腕を回してまたキスをねだり――。 「くそっ、これ以上はやばい……」   クールダウンを試みようと繰り返し深呼吸すれば、金の前髪が呼応するかのように揺れた。  理知的な額が見え隠れする、何でもないシーンが無駄にいやらしく見えて努力は泡と消える。吐いた息が熱い。  はあはあと獣じみた呼吸を繰り返す虎徹に反して、間近にある瞼は依然閉じられたままで。 (こっちはムズムズしてきたっつーのに)  腰の奥、散々バーナビーに打ち付けられた箇所が、下着の中に収められたままの欲望が理性の外へ行こうとしている。  肌の下でざわめく感覚はいっそ気持ち悪いとすら思うのに、身体がその気になってゆくのを止められない。 「もーどんだけやらしくなっちまったんだよ、俺……」  少なくとも、バーナビーと恋人関係になるまで知らなかった熱だ。自分の身体なのに、自分の意思ではどうにもならない。  バーナビーが触れて愛した結果の賜物だと思えば溜飲も下がるが、今現在、一人で盛り上がったって空しいだけだ。  いっそ起こしてしまおうか、悩んだ虎徹はこのまま続行することにした。  起きてしまえばこの悪戯も終わってしまう。やはり彼を抱いてみたいという気持ちは諦められなかった。  軽くキスをしてから、今度は魅惑の曲線を先で辿ることにする。男らしくシャープな顎から、汗が張り付くと眩暈するほどいやらしくなる  健康的な首筋を唾液の絡む舌先で舐め、そうして鎖骨に到達すれば彼がよく残したがる朱を刻んだ。白い肌に映える情色に、また煽られる。  たっぷりと吸い付いてから身体を下方へずらした先、胸の頂きで存在を主張する乳首と目が合った。  虎徹の色濃い乳首とは違い薄桃色なそこは一度だけ触れようとした際、頑なに拒否された場所だった。  その本人も目覚める気配はなく今だったら咎められることもない。呼吸のたびに上下に揺れる乳首はまるで誘っているかのよう。  ……触れ、ということだろう。虎徹は勝手に判断を下して、指先で軽くつついてみた。女のそことは違って小さく柔い部分は何とも  触り難いものだったが、幾度も撫でているうちに芯を持ち始めてきた。まるで小さなペニスだなと内心笑った虎徹は、今度は舌で愛撫することにした。  舌の広い面でべろりと舐めて、硬くなりつつある尖りを堪能する。舐めしゃぶる程に主張する素直な反応が可愛くて、つい甘やかしてしまう。 「っ、ん……」  頭上で漏れた声に、虎徹は動きを止めた。  ゆっくりと面を上げてバーナビーを見るも、まだ起きる気配はない。 「感じてんのか、これ」  唾液でどろどろになった乳首を今度は指先で虐めてやれば、柳眉が顰められさっきよりも濃い吐息が漏れた。僅かに揺れた腰がなんとも艶かしい。 「だから嫌がったんかな、バニーちゃん」  ほくそ笑みながら、はたと気が付いた。――乳首を弄られた経験があるから、嫌だと言えるんじゃないだろうか?  思い当たった理由に、頭から足の爪先まですっと一気に冷えていく。 (……普段から嫉妬丸出しのバニーをからかってたけど、俺も人のことは言えないな)  バーナビーはもてるし、虎徹を抱く巧みな手管からある程度の場数は踏んでいるだろうなとは思っていた。  過去は過去で、今更ほじくり返して責める気など毛頭ない。虎徹とて女性と付き合った事は勿論、結婚し子供までいる身なのだ。  判ってはいても、どうにもならないのが恋愛とやらの愛しくも厄介な部分だろう。  若い頃に何度も悩まされた感情には年齢も関係ないようで、年甲斐も無く絡め取られている胸のうちに苦笑せざるを得ない。  若いバーナビーならば可愛いものを、こんなおじさんの身で嫉妬なんてみっともないから、彼には悟られぬよう後生秘密にすることを虎徹は決めた。  淀む感情を追いやるように息を吐いて、それでもしつこく居残る苦い思いは相手に対する情の深さだと自らをフォローして行為に専念する。  バーナビーの乳首に触れた見ず知らずの相手以上に触れてしゃぶって、感じさせてやる。  虎徹は自分でも驚くほどに小さな果実に執着し、愛した。ただの乳首が愛撫によって立派な性感帯になった頃にはぷっくりと膨らみ  紅を刷いた女の唇よりも真っ赤で雄の欲望を否応無く煽る。無垢な白肌とのコントラストが卑猥で、目が離せない。  バーナビーが虎徹のそこを弄り倒し、嫌だと言っても離してくれない理由が判った気がする。  男の身体にある乳首なんてただの突起でしかなかったのに、こんなにいやらしいだなんて――。 「バニーちゃんて男をも惑わすヤな男だね……」  欲に忠実な指と舌が忙しなくバーナビーの身体を這い回ってゆく。  どこもかしこも綺麗で美味しくて、止まらない。時折ねじれる身体、漏れる吐息が興奮に拍車をかける。 『虎徹さんが悪いんですよ。あなたが、僕をこうさせる』  唐突に脳裏を占めたのは、グリーンの瞳を妖しく輝かせて虎徹を追い詰める情景。  ああ、こんな時にでも自分は「こっち」側なんだと思い知らされる。  それでも、欲情した途端に男を欲しがる身体が疎ましいだなんて思えないのだから、始末が悪い。  散々擦られ突き上げられた後孔の疼きを堪えながら乳首を解放してやれば、名残惜しげに震えた赤の頂。照明の淡い光に照らされた姿は  蜜がかった繊細な菓子細工のようで、またもやたっぷりと愛したくなったが、次の展開を我慢する余裕などなかった。 「寝ている癖に、勃ってんじゃん……」  黒の下着が膨らんでいるのを見て、思わず喉が鳴った。  通常時ですら大きいバーナビーのペニスは既に硬く勃起し、大きさを誇示している。  つつと指先で張った裏筋を辿ればヒクリと反応を示し、虎徹はたまらず股間に顔を埋めた。 「ん……」  下着越しに口付け、伸ばした舌先を這わせてゆく。  舌の腹で何度も何度も引っ掻いてやれば、とろりとした唾液で浮き上がってくる雄の形――陰嚢を起点とし伸びる太く立派な幹に  膨らんだ切っ先、布一枚で隠されているだけで逆に生々しい光景だった。昂ぶって昂ぶって仕方ない、自らの淫らさを知らしめる荒い息を  吹きかけながら、舐めることに熱中した。いつしか虎徹の下半身はゆらゆらと揺れ、自らを慰めるように大腿を擦り合わせている。  次第に物足りなくなるのは判っていた。焦れる一歩手前で、布と肌の隙間に左右の指先を忍ばせる。こくりと期待で上下する喉元  まるで粗相をしたかのようにぐっしょりと濡れた下着を、一息で引き下ろした。 「っあ……!」  勢いよく跳ね上がったペニスに頬を打たれ、唾液とは違う粘ついた液体が顔に飛び散った。唇の縁に付いた雫を舌先で拭えば、口に広がる塩味。  彼が感じている明らかな証拠に、虎徹の身体は一気に熱を帯びた。ねろりと残りを舐め取って、舌で届かない場所にあれば  指先で掬い取り、口元へ運んでゆく。ひとくち、ふたくち口にする度にいやらしく発情してゆく身体は、もう理性の箍を失いつつあった。 「欲しい……」  自然と漏れた声は自らの喉から発されたものだと認めたくない程に欲深かった。  そうして顔に飛んだ先走りが無くなり、潤んだ瞳が次いで見つめたのは、窮屈な下着から解放され天を向いたペニス。  時折昂ぶりを示すように震える肉茎は色が薄く、一般的な男の逸物に比べグロテスクな様相ではないが、大きさが尋常ではない。  ハンサムな容貌には不釣合いの凶器めいた佇まい、思わず身震いした身体に去来したのは、恐怖か快楽か。  まともな思考も危うくなった虎徹の目には、切っ先に滲む透明な先走りしか映っていなかった。  鼻先を掠めるバーナビーの匂いに、いっそ空腹すら感じる。  こげるように熱い視線を受けてひくひくと揺れる度、零れ落ちる淫液に舌を近づけようとして、虎徹は自らの目的を思い出した。 「あ、バニーを抱く、んだっけか……」  覆い隠すものが無くなった今、望んでいた箇所は無防備にうち震えていることだろう。  バーナビーがいつも解してくれるように、ローションを使って丁寧に準備すれば、グレーの下着を押し上げる愚息を挿入することだって可能なはずだ。  両の親指を大腿の付け根に食い込ませ、開いた先に――。 (くそ……っ! なんで、ケツが疼くんだよ)  彼を組み敷いているはずが、バーナビーに組み敷かれる妄想へすり替えられる。  あまりにも呆気なく、快楽の一瞬を切り取ったたくさんの場面が浮んでは消えて、痛いくらいに張り詰めていくペニスが  穿たれた感触の残る腰が悦びに痺れてゆく。欲しい欲しい欲しい。素直になれない心よりも身体は従順に、バーナビーを求めて奔る。  予想以上に、彼に溺れていたのを知った。彼の身体を、ペニスを目にしただけで、身体が全てを受け入れたいと叫んでいる。  もう、抱く側なんて、無理かもしれない。絶望めいた溜息は、それでも熱かった。 「あー……立派に調教されちゃってるな、俺……」 「まあ、あなたに対しては一切の遠慮なんてしていませんから」 「ばっ、ばにぃ!?」  突然響いた声に、虎徹は大仰に飛び上がって大腿から滑り落ちた。  大丈夫です? 掛けられた簡単な言葉すら、パニックを起こしている頭では処理しきれない。  何で何で何で。起きてたの? 見てたの? 聞いてたの?  ぺたんとシーツに尻を落ち着けた虎徹は意味不明な声を上げながら顔色を赤と青の交互に変化させた。  おろおろとうろたえる様子がよほど面白いのかバーナビーは相好を崩した。くつくつと肩を震わせ、両腕をついて上半身を起き上がらせる。 「さっきから触りながら独り言を言ってれば、嫌でも目が覚めますよ、虎徹さん」  口元がにたりと、いやらしくしなる。  未だ混乱真っ只中な虎徹のこめかみが、ひくついた。                                                                                    ⇒続き

 

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