お風呂は×××じゃありません!





 そして現在。  あれやこれやと手際よく剥かれた虎徹は同じく裸になったバーナビーに背後から抱きしめられ、男の大事な部分を人質に取られて排泄を強要されている。 「おしっこしている所を見せて」と言ったバーナビーは、本来の場所であるトイレではなく、バスルームというシチュエーションを選んだ。  白で統一された清潔感溢れる空間でこれから致すことなど、潔癖な彼ならば真っ先に拒否しそうなものなのに。 「……いつから風呂はトイレになったんだ」  長いキスを終えたばかりの唇が甘く痺れて、声が掠れる。 「おしっこした後、すぐに洗えてそのままあなたを抱くことができるでしょう?」  限られた時間でたっぷりとあなたを感じたい。  そう甘い言葉でごまかしやがったが、即物的な行動は同じ男として理解できるも、恋人としてはどうかと思う。  何が楽しくて相棒のシャワールームでションベンせねばならんのか。  もっともな怒りを幾度と無くぶつけてきたが冒頭のようにかわしては強要し、しまいには甘く耳朶まで噛んでくる始末。  見知った感覚に思わずぶるると身体を振るわせれば「もう出そうですか?」と弾むような声で擦り寄ってくるから、色んな意味で性質が悪い。  年下という負い目を常に感じているらしいバーナビーの、滅多にない甘えっぷりが可愛くて可愛くて。  湯気でしっとりと湿る柔らかな金髪を存分に撫で回したい衝動を、状況が状況だけに堪えて「出ねえぞ」としっかり断っておく。 「……なあ、なんでおじさんのションベンなんて見たいんだよ、バニーちゃん……」  尿意で気は殺がれているが、愛しい相手の掌に収まる愚息がつい反応しそうで意識を遠ざけようと、虎徹は背後から覗き込んでいる男を睨み付けた。  相手はキツい鳶色の瞳に構わず、下腹部を無遠慮にまじまじと見つめている。  眼鏡の越しのグリーンの瞳がいつもよりきらきらと輝いているのは、気のせいだと思いたい。 「見たいものは見たいんです。知ってます? 好奇心が世界をまわすんですよ」 「だっ! 意味判るよーな判らんよーなことをドヤ顔で言うな!」  誰もが認めるヒーロー、シュテルンビルドの話題の新星バーナビーブルックスJrはどうしてこうなった。  直接的な原因は派手好きな彼女にあるとはいえ、なにをこじらせてこうなった。  もっと最悪なことに、こんなバーナビーですらも愛しく思う自分が本当にどうしようもない。惚れた欲目とは、よく言ったものだ。 「虎徹さんがおしっこしているところが見たい」などという、とんでもないおねだりから能力を使ってでも逃げようとしない自分は、本当に愚かだった。 「かれこれ十分は経ってますよ。そろそろ苦しいんじゃないですか? ほら、お腹がパンパンになってる……苦しいでしょう? 楽になりたくない?」 「おい、この状況を作ってんのはお前っつーの、忘れてない?」  甘い囁きを持って落しにかかるバーナビーはどうしても排泄シーンを見たいのか、優しい癖に強引だ。  張った下腹部をそっとあやすように撫でながらも時に力を加えて排泄を促してくる。その度に走る鈍い痛みに顔を顰める虎徹に  気付いているだろうに、苦しそうとしゃしゃあと同情までしてくるのがあくどい。  天使のツラした悪魔のような彼の大きな手を叩きながら、虎徹は未だ抵抗を試みてはみるものの。 「何でここで、お前に見せなきゃいけねーんだよ……!」 「僕が見たいからです。色々なあなたを見てきたけれど、どんな顔して排泄をするのかはまだ見たことがない。  虎徹さん、知ってるでしょう? 僕が独占欲強いこと……」  誰よりもあなたを知って、独り占めしたい。そうせずにはいられないくらい、あなたに溺れてるんです。  ――続けて囁かれた言葉に、返り討ちにあってしまった。  全身が一気に茹で上がるように熱くなり息が詰まった。身体まるごと心臓にでもなったかのようにドクドクと騒がしくて、痛むほどで。  隙間無く密着しているから彼にもこの酷い状態が伝わっているだろう。いい歳したおじさんが甘言のひとつやふたつで上せるなんてみっともない――  羞恥で耳まで赤くなる虎徹をからかう所か、嬉しそうに微笑むバーナビーは本当は優しくて誰よりも甘い恋人だった。  まあ、それもこの現状を除けばの話だが。  いっそ醜いと思えることが出来れば良かった独占欲。シチュエーション的に、なんて重いと引いてしまえたらとまで思ってしまう。  無茶なお願いだった。もう人としてどうなんだろうと思う。いくら頭のてっぺんからつま先まで余すことなく暴かれ触れられ、尻まで  いじくり回されているとはいえ、排泄シーンなど見せるようなものでもないし、見せたくない。そんなマニアックな興味はAVで満たせと言いたい。  だが、彼は虎徹を好きだから見たいと言った。好きだから全てを見たい独占したい、これを言うのは反則だ。   虎徹だって、一歩外へ出れば観衆の視線を心を奪ってしまう彼のことを、常々独占したいと思っていた。  この男は自分だけのものだと、言いふらしてしまいたいこともある。だから気持ちを解してしまうのが、悔しい。  何より、身体が限界だった。下腹部が張って痛みを訴えている。  ちょっとでも力を緩めるだけで先端からはしたなく噴出してしまいそうなくらい、もう出したくてたまらない。  額に滲む脂汗をせっせと舐める甲斐甲斐しい男が憎たらしくも、可愛くてほだされそうになる。  瞳で指で舌先で、虎徹を好きだ好きだと言う男を誰が拒否できるだろう。 「ねえ、みたい……あなたの全てを、ぼくにみせて」  舌ったらずに甘えてくるバーナビーは子供のように可愛くて――鏡越しに見た彼はしかし、雄の顔をしていた。  明らかな欲情を湛えた瞳が甘い声を裏切り、早く虎徹が欲しいと無言ながら熱烈に口説いている。  肩に顎を乗せ首筋に擦り寄る様は可愛らしいのに、気を抜けばすぐにでも食らいついてきそうな眼差しがいやらしい。  目の前に鏡がなければそんなバーナビーに気付くことなく嫌だ嫌だと意地を通し、変えられない現状を少しだけ先延ばしに出来たかもしれない。  気がついてしまえばもう、駄目だった。早く欲しいのは虎徹だって同じで、お互い様なのだ。 「わかった、から……せめて手を離してくれよ」  どうしたって小さくなる声で陥落を伝えれば、バーナビーは虎徹の顔をぐっと覗き込み、グリーンの瞳を細めた。 「何故? かかったってすぐに洗えますし、あなたのなら気にしませんから」  伸ばした舌先で顎鬚をぺろりと舐め、そのまま唇に口付けてくる彼の言葉にゾッとする。 「汚いから嫌だって言ってんの!」 「駄目です。このままして下さい」 「バニーちゃあん……」 「いい子だから、虎徹さん。……後で御褒美、あげるから、ね?」  宥めるような囁きを耳朶に浴びせながら、ぐぐっと尻の間に押し付けられた硬いものに、びくりと虎徹の身体は震える。  意図を持って尻肉を突付くのは数え切れないほど受け入れてきた、バーナビーのペニス。人種の差か通常時ですら大きいそれは完全に怒張し、  火傷しそうな熱さを虎徹に訴えてくる。つるりとした先端が湯とは別のぬめりを帯びているのか、筋張った剛直を押し当て尻の亀裂に沿って  ゆっくりと腰を揺さぶる度にぬちゅりと響く音が卑猥だった。 (あ、も……それだけで、やばい……)  逞しさを知らしめる律動に、尻の奥で密やかに息づく後孔が切なく戦慄く。  彼のペニスがもたらす快感が如何なるものかを散々教え込まれてきた身体は素直に悦びを示し、背筋から膝までみっともなく悦びに震えてしまう。  喉元を掻き毟ってしまいたいくらいの強い渇きを覚えた虎徹は、何度も唾液を嚥下し、せりあがる欲望を押し留めようと努めたが。 「っ……そ、れっ、お前にとってのご褒美じゃねーの?」  鏡越しに唇を吊り上げて皮肉に笑おうとする顔は飢えに飢えた男の顔をしていて、我ながら見られたものじゃなかった。 「じゃあ、二人にとってのご褒美ですね」  ほら、あなたも腰が動いてる……食い入るよう鏡を見据えながら、無意識にゆらゆらと揺れるだらしない腰を指摘してくるバーナビーに  「お前がこんな身体にしたんだろ!」と怒鳴りたかったが、やめた。  久々のあまやかな雰囲気が愛しくて、これだけでも気持いいとうっとりとした声音で囁く彼に同意だったからだ。  自らも尻を寄せ、動きを合わせた虎徹に今宵初めてバーナビーの相貌から余裕が抜け落ちた。  眉根をぎゅっと寄せて衝動を堪える表情は男臭くて、エロティックで。  セックスの時しか見られない乱れた顔に、虎徹は少しばかり気が晴れた。  互いに我慢できない状態であることが判れば、次に取るべき行動はただひとつだけ。 「も、……する、から。お前、引くなよ?」 「引くわけがないでしょう? 僕がどれだけあなたを好きか、見くびらないで下さい」  バーナビーの胸元に身体を預け、ゆっくりと目を閉じる。  出すぞ、呟けばペニスを掴む指先が適度な角度を保持し、促すようにてっぺんを撫で上げた。  ぞくりと這い上がる見知った刺激に染まる息を我慢することなく吐き出してから、自分の手を白い甲に重ねる。  下腹部に溜まっていた熱い澱が身体の外へ一気に向かってゆく。  奥から溢れてくる奔流を堪えることなく、虎徹はバーナビーが見ている前で放尿した。 「っ、っあ……」  すると決めても恥ずかしいものは恥ずかしかった。噴出し続けるシャワーに混じり、タイルを打つ飛沫の音に耳をふさぎたくなる。  極力意識を他所へ持って行こうとしながらも、堪えていた尿を放出する気持ちよさから無防備に喉を晒して欲求が満たされていく心地を味わう。  すり、と肩に乗せられた小作りな顔が僅かに揺れて、金の髪が荒い吐息が耳朶を擽ってくる。 「いっぱいでてますよ、こてつさん……気持いい?」  とろとろに甘い舌ったらずな声に、排泄の快感とは違う痺れが背筋をじわり這い上がる。  突き刺さるような視線が下腹部と顔を行き来する気配。きっと閉じた瞼の向こう側に、まるで絶頂じみた表情のバーナビーがいるのだろう。  熱で潤んだグリーンの瞳を想像して、収束へ向かいつつある下腹部が今度は別の欲求で重くなる。大きな掌のなかにあるペニスが  虎徹の感情をいち早く素直に表し、びくびくと震え興奮の兆しを見せ始めた。 「かわいい……可愛いです、虎徹さん。とても我慢していたんですね、勢いが凄い。それに、ペニスが熱くてやらしい……  虎徹さんのなかは、もっと熱いんだろうな」 「うるせ……お前、覚えておけよ……」 「どうして、くれるんです?」  ぎゅっと抱きしめながらとろけた笑みを見せるバーナビーに、虎徹のむっつり顔が続くのもあと僅か。  とうに許してはいたけれど、甘い顔を見せればすぐに付け入ろうとする年下の恋人である。  まだ不機嫌だというのを装いキスをねだればすぐに触れてきて、ぬるんと忍ばせてきた舌先の熱さに幾分か溜飲が下がった。  こんな姿を見て萎えることなく、更に興奮している彼にほっとした。  尻の間に押し付けてくる硬く熱いものが素直に虎徹を欲し、大胆に揺すられるから否応無く次の展開への期待を煽る。  どうして今まで離れていたのか、触れずにいられたのか。不思議なくらい欲しくて欲しくて、心と身体がバーナビーへ一直線に向かっていく。  好きだから、感情のままに何でもしたがる男との付き合いに、これから先不安を持ってしまうのは仕方がないと思う。それでも。 「大好きです、虎徹さん。あなたが可愛くて生きるのがつらい」 「なんだそりゃ…んな妙な台詞、どこで覚えてきたんだよ、バカ兎」  ハンサムな男にほだされてしまえばどこまでもいける気がするのだから怖い。  身体に巻きつく腕を取り払い今度は真正面から抱き合う。固くなり始めた乳首を胸板に押し付けながらこれがいい、そう耳元で囁いてやれば  切羽詰った両腕が虎徹に絡み、乱暴な動作で深く唇が触れてきた。  虎徹のものに押し付けてくるペニスの大きさに喉を鳴らしながら、がっついてくる男の背をいやらしく撫で回した。  キスで情を分かち合いたいのか、すぐに欲望を果たしたいのか。  そのどちらも満たしたいという余裕のない顔は年相応の熱情を秘めていて、目が逸らせない。 (可愛いのはお前だよ、バーナビー)  即座に否定されるだろう言葉を内心で呟きながら、虎徹は恋人がもたらす甘いひとときへ身を投じるべく、接近に邪魔な眼鏡を奪い取った。  ガラス一枚ないだけで真っ向から浴びせられる瞳の美しさが堪らない。  もっと触れたい一心で指先が緩んだのと、少しだけ体温が低い、今は湯よりも熱い白い指が絡んできたのはほぼ同時だった。  バーナビーは同じ眼鏡を五つ持っているという。  視力のいい虎徹にとってはどうでもいい話だったが、好いた相手のことだからと耳を傾けていて本当に良かった。  落ちていくそれを掴むのは容易いことでも、一分一秒すら無駄にしたくないほど、相手に焦れていたのだから。                                                                      「お風呂は×××じゃありません!」H24.3.9

 

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