淫愛に溺れて





・はじめに  今回はSMテイストです。ヒューズが淫語やら喘いでいます。  平気な方のみ、どうぞご覧くださいませ。 「ヒューズ」 「何だ、ロイ?」  突然名を呼ばれ読み耽っていた資料から顔を上げる。  俺が腰掛けている来客用ソファ近くに位置する大きな執務机を挟んだ向こう側、この部屋の主と視線が重なった途端、怜悧な黒の双眸がすっと細められた。  今か今かと待ち焦がれていた時間の到来である、合図。一際高い心音が全身へ響いた。  すぐにでも下されるだろう命令を待つことすら我慢出来ず手にしていた資料をテーブルへ放り投げると、舞い散る紙束の  渇いた音以上に喧しい足音を立てて座する男の前へ駆けつけた。 「おやおや、そんなに待ち遠しかったのか? 相変わらず淫乱だな。こらえ性のないお前のお望みどおり、すぐに大好きな命令をしてやろうな」  俺の焦れた行動にロイは咎める様子もなく、苦笑しながら組んでいた足を解き肩幅分ほど開いた。  足と足の間に出来た僅かなスペースは俺だけの居場所だ。これから起こる淫靡なひとときを想像し、自然と頬に熱が集中する。  早鐘を打つ心臓の遥か下方にある欲望が、同調するかのようにふるりと震えた。 「……さあ、マース。お前の締まりない淫らな口で、主人である俺のブツを舐めろ」  嗜虐的な光を宿した瞳でこちらを見据え薄い唇を歪ませた瞬間、魅惑の言葉が執務室に響いた。  悦びにざわめく心。たっぷりと愛を快楽を受けてきた肢体の、頭の先から爪先までがじゅくじゅくと疼き内臓や筋肉、脂肪をも  どろどろに溶かしてしまうかのような卑しい熱が急上昇する。体内で起こる目まぐるしい変化の果てに、喘ぎにも似た吐息がカサついた唇を濡らした。  待ちに待っていた命令で、内に棲む淫らな性を――人間として当たり前の尊厳を捨てた、奴隷としての俺が目を覚ます。  もうここにはさっきまで職務に励んでいたマース・ヒューズ中佐としての姿がないことを、ただ一人の主に付き従い愛することを  明確に表すべく、椅子に座する相手の足元に跪き恭しく一礼をした。 「あぁ……っ、はい、ご主人様……っ!」  地面に触れるほど深く下げていた頭を上げると同時に、惹きつけられるように斜めをゆく視線の先には憫笑する  端正な面持ちのロイ・マスタングこと、愛しい我が主。  執務室の窓から漏れ出る沈みかけた夕陽に照らされ赤く染まる姿は、まさしく焔の錬金術師に相応しい。  主の類稀とも言える美貌を更に際立たせるのが一日の終わりだと、俺は密かに思っていた。  同じ人間を崇め付き従うことに拒否感や屈辱など既にない。  むしろ目の前の男に好き勝手に身体を玩具とされる悦びは他では代用しがたいものとして、俺のライフワークのひとつとなっているほどだ。  仕事後の一杯、家族との団欒よりも……主を崇め愛することが、何物にも代え難い俺の至福だった。  今日は気分が良いらしい主の整った顔が「遅い」と不機嫌で歪む前に、命令された通り深く腰掛ける主の股間へ  顔を寄せながら両手を伸ばした。 「やっぱ、デケぇ……っ」  動きに支障のないゆったりとした余裕ある作りの軍服だが、布を押し上げひと山こしらえる雄の迫力に何度見ても感嘆の息が漏れてしまう。  平常時でもはっきりと形が伺えるほど盛り上がる目の前の光景は、だらしない奴隷の俺を誘惑してやまない。  美味い肉の味を知っているからこそ興奮と期待から反射的に口内に溜まる唾液が邪魔で、ワザと大きな音を立てて嚥下すれば主に鼻で笑われた。  はるか頭上から見下す主の突き刺すような黒の眼差しに言葉なく先を促され、生地越しに撫で擦っていた両手を深く軍服に忍び込ませた。  ピッタリとした下着の中へ潜り込んだ指に当たるのは張りのある肉の感触。興奮の門をくぐる前のまだ柔らかいカタマリを  そっと抱き締めるように両手で包み込めば、あたたかい雄がビクビクと震えた。心臓にも負けない、強靭な生命を思わせる  脈動が愛しくて、窮屈な下着から夕陽の下へそっと肉棒を曝け出した。 「ぁ……っ、ごしゅじんさまの、きれいだ……っ」  賞賛せずにはいられないその御姿――男の象徴である、ペニス。  目にした途端、ビンビンに勃起した肉をいっぱいに頬張って口淫に耽り、抉るように肛虐され悦楽に突き落とされた記憶が  フラッシュバックし、身体へ快楽を帯びた甘い衝撃が走る。はしたなく震える腰につられて上擦ってしまう言葉が、主の艶やかな笑みをより深める。 「お前はコレが三度の飯より大好きだもんなあ? ほら、もっとよく見ていいんだぞ」  揶揄する言葉を囁き頭に大きな手が乗せられたと思う間もなく、強い力で強制的に股間へ顔を埋めさせられた。  頬へ唇へと顔中に押し付けられる先端の弾力ある感触を堪能していると、一日中下着の中で窮屈にしまわれていた為か刺激的な臭いが鼻を突いた。  アンモニア交じりの臭気に、生理的嫌悪という人間らしい感情なぞ湧いてこない。  この臭いこそ、奴隷の俺にとっちゃ更なる興奮を呼び起こす一因となるのだ。 「んぷぅ……っ、ふぁぁ……すげっ、いいにおいっ……! ああっ、うまそうっ……ありが、とう……ござい、ます……っ!」  主自ら股間へ導いてくれた礼をすれば、満足そうに双眸が細められる。   頬を寄せゆっくりと卑肉を撫でながら肺一杯に臭気を取り込んで、主の臭いを身体全体へ行き渡らせるイメージを描く。  まるで主と一体化するかのようなこの瞬間が、俺は大好きだった。  目の前でぐんぐん成長する様をしっかりと掌で味わうえば身体の芯が疼いてたまらない。これが欲しい。  めちゃくちゃに突かれて、アナルの最奥で主の熱い証が欲しい。せりあがる強烈な欲求に目の奥が熱く潤んでゆく。  脳内で淫らな妄想を繰り広げる俺の息は無意識に荒くなり、静かな室内に激しい呼吸音が響く。  美味そうな赤黒い大きな肉のカタマリは、俺にとっちゃ何よりものご褒美だ。命令に従い良い子にしていれば  優しくも厳しい主が与えてくれる、この世で一番高潔で美味いものだ。 「そこまで喜んでもらえるとは、光栄だな。……そろそろ咥えたいだろ? 舐めるんだ、マース」 「っ、いただき、ます……っ!」  こちらの状態を見透かすような眼差しを投げて囁く主に、舌ったらずな口調で頷いた。  まだ完全に勃起していないとはいえ結構な硬さと熱を孕むペニスを舐めやすいように握りこんで、男の掌でも余りある大きな存在を  確かめるよう撫でながら、舌を出して亀頭を舐めた。舌先から口内へ広がる臭気の元に、興奮のあまり喉奥が震える。  跪いて舐めるペニスの向こう側、眉を顰めた主の艶かしい表情に己の心臓が忙しく鳴り響いた。早く、早くと淫らな本能に急かされるがまま  犬のようにベロンと舌を出し、内なる卑しい渇望を癒そうと何度も何度も舌を這わせていく。 「っ……いいぞ、美味いか?」 「んんっ……っ、じゅぅぅっ……うまい、っ……うまい……っ!!」  夢中になって舐める俺の頭に掌を載せ撫でながら問いかける主へ、舌の動きはそのままに視線を向ければ、惚れ惚れするほどに美しい艶笑にぶつかる。  けして上手とは言えない自分の舌使いに感じてていることが分かるイヤラシイ雰囲気に、たまらず主の軍服をくつろげて  立派なペニスを完全に剥き出しにする。亀頭の張りに負けないぶっといグロテスクな赤黒い幹に、男にしては白い肌を  彩る黒くたっぷりと繁った陰毛。卑猥な色のコントラストは俺の目には女の身体以上に淫らなものとして映る。  愛しさと興奮に負け、舐める行為を放棄し思わず涎まみれのペニスへ頬ずりをしてしまう。 「そんなに俺のチンポが好きか? まあ、お前はいつも美味い美味いと吠え、イイ声で鳴いてくれるもんな」  快楽の滲む掠れた声を漏らし、優しい掌が労わるように幾度も頭上を往復するも。 「だが、俺は頬ずりしろとは言ってないよな? 舐めろと、言ったはずだが?」 「んぐっ!? うあああああっ!!」  突然、撫でていた指が髪を強く掴み、無理矢理引っ張り上げられた。  頭皮が裂けるのも構わないとばかりに遠慮など一切ない手指に数回荒く引っ張られ、頭に激痛が走る。  どうにか痛みから逃れようと身を捩り振り払おうとするも許してくれない。情けない悲鳴を部屋へ放ちながら少しでも  痛みを和らげるべく腰を浮かせた先、涙でぼやけた視界のなかへ主が入り込んできた。  間近でも揺るがない完璧たる美貌に見蕩れたのも僅かな間だけ。  剣呑な光を帯びた黒の双眸に射抜かれ、俺の身体は見えぬ糸で雁字搦めにされたかのように硬直してしまう。  軍服の下で密かに息づく、赤く腫れた数多もの裂傷が何事かを訴えるように肌の上で蠢いている。  瞳の変化は経験上、最も恐れ逃れたくなる瞬間を前にして目にすることが多かった。仕置きという、己が起こした不敬極まりない行動や  言動を戒めるべく加えられた数々の非情な仕打ちが、生々しいまでのリアルを伴い脳裏に蘇る。  意識を飛ばすことも、狂うことも許さない主の絶妙な差配により俺は俺のままで地獄の嗜虐を受けてきた。  忘却したくても叶わない絶大な苦痛の記憶を刻まれた肢体が、押さえきれぬほどの震えに襲われた。 「命令外の、余計な事はするな」  髪を掴んでいる手とは反対の、もう片方の指先で顎を掬われる。互いの吐息が絡む至近距離。  冷ややかな双眸で囁き、頷く間も与えられぬまま不意に口付けられた。  驚きで目を瞠るよりも早く口腔で感じた主の存在。肉厚な舌のざらつきを己のソレで捉えた頃には巧みな舌技に翻弄され  湧き上がる快感にくぐもった悲鳴を上げていた。唾液を練り立てる水音の淫靡さに押され自らも主の舌をしゃぶろうとしたとき、呆気なく唇が離れてしまう。 「……俺はお前を愛しているよ、マース。だが、何度となく仕置きをしているにも関わらず、命令を遵守しないのはいただけないな。  これでも国軍大佐の身。一向に俺の言う事を聞かぬ奴隷を躾ける暇はないんだが?」  唾液で濡れる唇を舐めてくれる舌の優しさに反し、双眸はただひたすらに冷えていた。 「良い変化が見られないという事は、俺を愛しているというお前の言葉は偽りだったのか?   このままだと、お前を捨てることも考えなければならないな、マース?」  子供に言い含めるかのようにゆっくりと紡がれた言葉の残酷な響きに、頭が真っ白になる。  主のいない世界など――最早考えられない。 「っっ!? いやっ、いやだああっ!! も、もうし、わけ……ありませんっ……、ご主人っ、さま……っ!  俺は、ご主人さまだけをっ、愛してるっ! あいしてるんだっ……もう、はなれたくない、っ……すて、すてないで、  そばにっ……そばに、おいて……くれっっ!!」  衝動的に絶叫し哀願する己の姿はさぞみじめったらしいだろう。だが、構ってはいられない。  俺は主がいなければ生きてはいけない卑しい奴隷。己の確固たる理念や価値観ですら主の手によって作り変えられた俺は  主の為に行動し、主の叶え難い命令すら遵守することで人並みの悦びを感じ、生きていける。俺と言う存在を形作るには主が絶対に必要なのだ。  いや、それ以上に……このまま放り出されてしまえばもう二度と、長年欲してきた最愛の主と愛し合えない。  込み上げる絶望と恐怖を露にして壊れたオモチャのように謝罪を繰り返す俺の髪を掴んでいた手が、ふと撫でる動きへと変わった。  恐る恐る主を伺えば、そこにはいつもの穏やかな表情があった。 「……お前を本気で捨てるわけないだろう? だが、愛を疑いかねないということは覚えておいてくれ。  誰よりもお前を愛している俺も、既に手放せん所まで来ているんだよ、マース」 「っ、うぅっ……ごしゅじん、さま……。申し訳、ありません……」  心から安堵しながら改めて謝罪をすれば、秀麗な眉を顰めどこか苦しげに微笑する主の唇が額へ触れた。  今の俺も主と同じ表情をしているのだろうか、眉間を舌先でくすぐられた。  そう、俺達はもう戻れない。  互いなくては生きていけぬ位置にいる。言葉なく瞳で交わし触れるだけの口付けをした。  昔から親友以上の好意を持ってはいたものの男同士というハードルの高さゆえに叶わぬ願いだと、結婚することで諦めたはずだった主、ロイへの想い。  彼もまた同じ気持ちであったことを知ったのは、娘が生まれ一層賑やかになった家庭に幸せを、安寧を見出した頃だった。  ロイの部屋で美味い酒を味わっていた、新月の夜。  酒の勢いか、常にはない激しい感情を双眸に滾らせ「お前が、お前の家族が憎い」と、アルコールの入ったグラスを叩き割り  内情を吐露した男の顔は、今でも忘れられない。烈火のごとき怒りの表情で威圧するロイに慄くと同時に、  今にも食ってかかりそうな雄の本能に魅入られたのだ。  乱暴に床へ押し倒され、向けられた雄の顔。全身から迸る憎しみと紙一重の激しい愛情。判断を間違えれば殺されかねない、嗜虐を秘めた双眸。  叶う筈がないと諦めた好きで好きでたまらない男が俺に欲情し、食らいつこうとしている。  夢以上に夢のような魅惑の状況。しかし紛れもない現実を目前にして、俺は人生最大の悦びと興奮を覚えた。  それなりに世間体を気にしていた俺、押し付けの倫理観を守っていた俺、既婚者としての俺、家族を愛する俺……  生きるにおいて守っていたモノ全てを下らないと判断したのは、時間にして一秒もなかっただろう。  何もかもを捨てて俺はただのマース・ヒューズとなり、愛する男の腕の中へ飛び込んだ。  たっぷりと愛欲に溺れた晩をきっかけに、今まで近しい距離で想い合いながらもけして交差しなかった空白の時を埋める勢いで四六時中、互いの身体を貪り合った。  ずっと言えなかった「好きだ」「愛している」というありふれた愛の言葉は秘匿にすべき気持ちの上で貴重なものだと思っていたが、  幾度も口にする機会に恵まれその価値はすぐに薄れていった。言葉など所詮、表現方法の一つでしかない。  ただ指先を、瞳を重ねただけで伝わる確固たる愛を得て、言葉に拘るのは滑稽に思えた。  お互いに平然と日常を過ごしつつ決して他言出来ぬ関係を水面下で続けるなか、どこへ行っても「既婚者」として見られる俺を  ロイが支配下に置こうとしたのは、必然だったように思う。周りに知られぬよう配慮しながら些細な日常生活から、快楽、食欲や排泄などの  生理的欲求でさえコントロールしようとしたロイに疑問も嫌悪も持たず従った。  長年一番欲しいと思ったものを手に入れられなかった渇望は、考えていた以上に深かったのだろう。  誰よりも愛する男から身も心もがっしりと見えぬ鎖で縛られ支配される、それは不自由にもがくよりより悦びでしかなかった。  幾度もロイから手解きを受け、時に厳しい罰を与えられることも至上の悦楽であり。  甘い言葉で惑乱し嗜虐の限りを尽くし愛してくれるロイを、いつしか俺は「ご主人様」と呼ぶようになった。  主と崇め愛を捧げれば、ロイは……主は、今まで見てきたなかで一番幸せそうに笑ってくれたのだ。  もう少しお互いの気持ちを知るのが早ければ、運命は変わっていたのかもしれない。  唯一無二の親友として、一般的な恋人と同じように穏やかに愛しあう関係だったのかもしれない。  だが、これだけは言える。今以上の愛と喜悦は得られない、数多ある運命の中でこれが最上の選択だったと。  俄かに離れ難い、奇跡めいたこの関係。身体も心も主好みに作り変えられた俺は世に二つとない奴隷だ。  主を愛することでしか生きられない脆弱な奴隷だからこそ、背信的な態度は許されない。  もっと愛し愛される為に。二人で生きる為に。  長い口付けを終え、欲情を浮かべる双眸から視線を逸らさず、今一度心中で主の奴隷であることを誓った。 「……可愛い可愛い、俺だけの淫乱なマースならば、続きは出来るな?」  愉悦を滲ませる声音に頷いて、再び股間へと顔を埋める。尖らせた舌先で亀頭を突けば、先程よりも屹立を示すペニスがぶるんと震えた。  逞しく脈打つ様がえもいわれぬ色気を放ち、込み上げる欲情に突き動かされるがまま茂みに埋もれる根本から頂点へ向け  舌を丸出しにし、ねっとりと舐めあげてゆく。溢れる唾液のせいでべちゃべちょなペニスは滑りがよく、ぬめりを借りて  後ろで控える睾丸も音を立てながら揉み込むのも忘れない。ペニス全体を愛しむように時々裏筋をくすぐり、硬さと太さを  増しつつある肉棒の先端を円を描くように舐めていると尿道口から先走りが漏れてきた。更なるフェラチオを誘引する淫臭に身体よりも先に、くらくらと頭が犯される。 「うむぅ……っう、ん……ふあぁぁ……んむううう……っ」 「良い舌使いだな、上手いぞマース。そう、そこでどうするんだった?」  優しく髪をなでる主人の淫楽を秘めた呟きは、舌の動きをよりなめらかにさせる。  くびれを舌先で丹念に往復しながら、濃厚な奉仕を促されてそのまま、大きく口を開いて湿った口内へと導く。  微かな淫音を響かせてぬらぬらとやらしく輝く肉棒を頬張れば、まともに口淫が出来ぬほどのサイズに噎せてしまった。  一旦吐き出そうとするも、膨張した肉が頬をぐいぐいと擦り始めて成すがままになる。 「んぐううっ、むう……んっ!!」 「っ、ッ……お前の口の中は相変わらず、いい具合だな……しっとりと濡れて、気持ちがいい。  舌もぐちゃぐちゃと絡んできて、締め付けのいいアナルにも負けないぞ、これは」  熱っぽい吐息を漏らす、夕陽の中で絶大な存在感を魅せる男。  すぐにでも奉仕を投げ捨ててむしゃぶりつきたくなる、危い色気を持つ主から目が離せない。  奉仕することを一から仕込まれた口は、生きる為に食事をする為の器官ではない。  主を喜ばせるための専用の性器と化し、気持ち良さそうに目を細める主人の姿は奴隷冥利に尽きる。 「っ、く……ぅッ! 上手過ぎるぞ、マースッ……そろそろフィニッシュだ、しっかりと咥えろ!」 「ううんっ……むぅんっ、はふうっ、むううんっ……!!」  返事をする代わりに口元を窄め、頭を上下に揺らし柔い頬肉で攻め立てる。  ワザとはしたない水音を立てて淫らな雰囲気を作りながら、いつしか限界までパンパンに膨れ上がったペニスをたっぷりと愛しむ。  尿道口を中心に舌で突き残り少ないジュースをストローで飲み干すように下品な音を立てて吸い上げながら、先端からとめどなく溢れる 先走り液を唾液ごと嚥下してゆく。つるつるの亀頭が真っ赤に染まり今にも破裂しそうな姿を想像すれば身体の奥底がカッと熱くなる。  フェラチオは大好きだが、美術品と見まごうような立派な雄の象徴を目に出来ないことが唯一残念だった。  愛しい主のものは全て見ていたい、愛するがゆえの独占欲。 「う……っ、お前の好きな精液を、出してやろう、なッ……ほら、全部飲み干せッ!」 「うむんんんっっ、ぐうううううううっ!!」  切羽詰ったように宣言するよりも早くキツく頭を押さえ込まれ、ペニスの先端が咽奥へ入り込む。  荒っぽく頭を揺さぶられては数回、ぬめる粘膜に亀頭がこすり付けられて間もなく灼熱の奔流が肉へ叩きつけられた。  激しく脈打つ肉棒の先端からたっぷりと溢れる粘っこい精液を必至に飲み下しながら、瞼を薄く開いて吐精の衝撃に耐える主を見上げた。  眉を顰めて息を吐き出す唇の形が、逸らされた白い首筋がなんとも艶かしい。  射精後の無防備な一瞬を目にすると、少しばかり背徳じみた不思議な気持ちにさせられる。  ゆっくりと放出の勢いが弱まってから主の精液の味を堪能する。独特の青臭い強烈な臭気も俺にとっては、最大のご褒美だ。  どんな美味い酒よりも、世界中のどこを探してもこれほど美味いものはないだろう。 「俺の臭い精液がそんなに好きか?」  尿道に一滴も残さぬよう強弱つけて吸い上げる俺をからかう主に、目元だけで笑んでみせる。  まだ欲しい、その欲求を満たせぬまま射精を終えてしまったペニス。名残惜しい気持ちはあれど今度は敏感な肉を労わるよう丁寧に丁寧に 舌を這わせて残滓を舐め取っていく。一から育てて射精を促し、後始末をする……主のデカいペニスをこの間だけ  俺の好きに出来るという満足感はフェラチオの醍醐味だ。  椅子に深く腰掛け気だるい雰囲気を纏わせた主が、快楽の余韻引かぬその眼差しで見下ろしつつ、物言わず頭を撫でてくれる。  ゆっくりと萎えていく肉棒に絡んだ白濁を清めてから抜き、愛情と感謝を込めて天辺へそっとキスをした。 「毎日フェラをしているだけあって、大分上手くなったじゃないか」 「ありがとう、ございますっ……。本当は、一日一回じゃ、足りない……。俺は、もっと、ご主人さまのチンポを、舐めて……  いっぱいなめて、うまい汁を……たくさん、飲みたい……精液で腹いっぱいに、なりたいんだ……」  密かに抱いていた願望だった。フェラチオを覚えてから一回だけではずっと物足りないと思っていた。  何時までも舐めていたいほどペニスが、主が好きでたまらない。 「それは流石に無理だ、マース。俺もお前が可愛いからな、おねだりされるがままたっぷりと精液は飲ませてやりたいが……」  一旦言葉を切り、頭から降りてきた掌に頬を撫でられる。 「お前はいやらしいからセックスも大好きだろ? 場所に構わずチンポを欲しがるし、トロトロにしたアナルへすぐにチンポを  挿れてやらないだけで、啼いて拗ねるもんな? しょっちゅうお前の口で抜かれたら、アナルからお漏らしするほど  精液を注いでやれなくなるぞ」  また明日も舐めさせてやるからと破顔する主に正直残念ではあったが、主の言うとおり俺はセックスが好きだ。  何時でも主と繋がっていたい、愛し合った証が欲しくてたまらない――理性ではもう歯止めのきかぬ強い欲求につき動かされ、  たとえ外であっても二人きりになれば求めていた。はしたないと注意されても、主の股間へぴったりと寄せた尻を振ってねだることをやめられない。  愛を深め快楽を共有するセックスは本来、子を成す為の生殖行為だ。  女の身体を持っていない俺ではいくら射精をされたって妊娠は勿論のこと、精子本来の機能を全うさせることも出来ない。  熱かった精液はすぐに冷め、将来の可能性を秘めた精子はただ無駄に朽ちていくだけ。  男同士の接触は無意味で背徳的、非難や排他はされても褒められた行為ではない。  だが、セックスで得られるものは見えるものだけではないし、男女関係ないだろうと思っている。  興奮を最高潮にまで高めたペニスで体内を突き抉られ、十分に熟れた肉襞に熱い証をぶちまけられる快感や充足感は、この上ない幸福だった。  主と生きているかぎり、飽きることなく繋がることを望むだろう。  懐から今朝グレイシアがアイロンをかけ持たせてくれた清潔なハンカチを取り出し、綺麗にペニスを拭ってから下着に納め衣服を整えていく。  黙って見やる視線に慣れたこととはいえ、最後の最後で粗相をし気分を害してしまわぬかいつも緊張してしまう。  きっちりと始末をしてすぐ腕を取られ、引っ張られるがままに主の膝へ抱き合う形で招かれた。  間近で見下ろす黒の双眸――熱を孕んだ表面に、今にもイキそうな俺の顔が映りこんでいた。 「お前も随分と興奮しているじゃないか。たかがフェラチオで変態だな」 「それは……ご、主人さまの……だいすきな、でけえチンポを、舐めてれば……興奮くらい、するさ……」 「そうだな、男のチンポを舐めるだけで興奮するようなド変態に仕上げたのは俺だ」  ペニスを舐めるだけで興奮する身体に仕立てた張本人ならば分かっているだろうに、ワザワザ言葉で煽るいやらしい主に羞恥を感じざるを得ない。  奴隷とはいえ人間らしい反応を示す熱い頬を紛らわそうと、情婦のように目の前の身体へしなだれかかった。  軍服から覗く太い首筋へ唇を寄せ、唾液をたっぷりと乗せた舌先でくるくると肌を撫でてゆく。  くすぐったそうに目を細めて頭を撫でてくれる主に甘え、ぺちゃぺちゃと淫音を響かせつつ精悍な頬へ舌先を向けた。  男の割には滑らかな質感の肌は心地よく、夢中になって舌を這わせる。 「お前は犬か? くすぐったくてかなわん」 「ぅあ……んぅッ、もっと、もっと舐めたい……っ、んッ!」 「ここまで淫乱に成長するとは……俺をがむしゃらに欲しがるお前は本当に可愛いな」  唾液でベタベタな頬を妖しく煌かせた主から、苦笑交じりに身体を引き離されるも。  足りないと文句を口にした途端、きつく抱き締められた。甘い囁きに耳朶を弄ばれ、密着している腰がゾクゾクと痺れる。  既にぐっしょりと濡れそぼった下着の中で、破裂寸前にまで昂っていたペニスも愛撫をねだるかのように小刻みに揺れた。 「こら、腹にパンパンに膨らんだチンポが当たっているぞ、恥かしいと思わんのか? まあお前もそろそろ限界だろう。    あれだけいやらしくペロペロとチンポを舐めていたもんなあ? ……さあ、マース。俺の奴隷らしくお願いしてみろ。  お前は俺のものだと、沈みかけた陽の下で誓え。誓えば、お前のはしたない身体を全身全霊をかけて愛してやろう」  低い声音で紡がれる魅惑的な言葉は耳穴から体内へ侵入し、まるで意思を持った生物のように身体の至るところへ  爪を立て引っ掻きまわしながら深く深く入り込んでゆく。 「奴隷らしくお願いしてみろ」これは一種の儀式だった。  己の身体に起こっている淫らな変化を認め自ら主のモノだと宣言することで、改めて「既婚者」としての呪縛を解き放ち  下らないしがらみから俺を自由にする。これはただの哀願ではない。俺たちの関係を確固たるものとし愛し合う為の、大切な行為だった。  主の双眸から目を逸らさず、互いの吐息が肌に触れる位置へ。 「俺は、マース・ヒューズ……階級は中佐。妻子ある男、だ……」  白い額へそっと唇を押し付ける。 「ロイ……ご主人様の為に、俺は正しい常識を捨てる。理性を捨てる。家族を、捨てる……」  唇を触れさせたまま鼻筋を通り、額を重ね合わせた。  触れた箇所から溶けて交じり合う体温に、うっとりと吐息を漏らす。  今一度、戒めるのだ。  ロイ・マスタングというただ一人の主を心から敬愛する奴隷になれ、と。  何度も何度も、心と身体に刷り込むように。 「俺には何もいらない。ご主人様さえ、いれば……。どうか俺を、俺だけを見て愛してくれ。この淫乱な身体を、好きに嬲って欲しい。  めちゃくちゃに、してくれっ……愛してる、愛しているんだ、ご主人さま……」 「……満点とはいかないが、よく言ったマース。お前は良い子だな。ここまで想われる俺は幸せ者だよ」  朱に染まる主の顔に、微笑が浮かぶ。  ああ、俺はなんて果報ものだろう。こんな魅惑的な男を独占して愛し、愛されるなんて。  目の前の神にも等しい主さえいれば、何もいらない。  黒い双眸を眇めた主人の手が顎に添えられる。  ゆっくりと近づいてくる熱の塊が己の唇に触れて、至上の悦びに身体がうち震えた。 「愛している……お前は、俺のものだ。俺にだけ従い、身体を開き、辱めさえ悦んで受け入れる、情けない奴隷……  全部全部全部、俺のものだ。俺だけの、マース。俺だけの……奴隷だ」  唇を撫でる熱っぽい囁きは見えない鎖となって俺を戒め、更なる淫愛へと誘う。  最愛のひととならばどこまでもどこまでも、奴隷と言う確かな愛を捧げて跪いてやる。  姦淫の果てに何が待っていようとも、俺が俺で居られる場所は主の腕のなか以外には有り得ないのだ。  ふたりとろけるような快楽に溺れる度、考える。  身も心も全て交じり合い攪拌され、お互いが分からなくなるほどドロドロに溶けてしまいたい、と。  捏ねて丸めて不恰好でもひとつの個体となってしまえば、永久に絶頂の幸せを味わったまま、誰にもほどくことが出来ないだろう?   ――ああ、俺達はまだまだ愛し足りないんだ。  明日はもっと愛し合おう。  腕を伸ばして強く抱き締めながら愛を誓い、今日という一日を終えるのだ。      「淫愛に溺れて」H21.2.18

 

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