「好き、なんだろうなぁ……」 春は恋の季節だな、ってハボックさんが呟いた柄でもない台詞で気が付くなんて、僕は本当に鈍いらしい。 「恋」で連想した人が僕の上司かつ同性の男だった、なんて……普通は有り得る? 考えても考えても、浮かぶ顔は端正な面持ちの上司。これはもう、「恋」決定、かもしれない。 気が付いたところで、どうしたらいいのか判らないけれど。窓ガラスに映る僕の顔は、さっきから戸惑いを浮かべている。 明日からどんな顔して会えばいいんだろう。 明日からどんな顔して呼べばいいんだろう。 「ロイさん……」 元凶の名を口にしてみる。 ドクン、と高鳴る心臓は、常にない反応を示した。これが言葉を証明する何よりの証拠だ。 僕は、ロイさんに恋をしている。多分自分が知らないだけで、めちゃめちゃ好きっぽい。 「……あ、花だ」 戸惑いの表情の向こう、庭の緑の中で黄色のたんぽぽが揺れていた。 華やかな季節の到来に気が付いて、口元は自然と弧を描く。 「もう、そんな時期か」 暖かく、花々の美しい風情を楽しめる春は好きだ。 何故か心が浮き立って、どこかへ冒険してみたくもなる。 「……春の風に任せて流れてみるのも、悪くないかもしれないなぁ……」 勿論上司であり同性でもあるロイさんを好きだという戸惑いはある……あのたんぽぽのように、見事、花咲くかはわからないけれど。 「春は恋の季節、だもんね」 呟いて、窓ガラスに映った自分の表情に笑った。 ハボックさんに負けず劣らず、僕の柄ではない言葉だったから。 「春の風、恋の始まり」H19.4.26