背徳





女体化のエドアルです。 苦手な方は回れ右をお願い致します。  纏っていた軍服の上着を脱いで、エドワードは少女の頭に被せた。  これでどこから見ても、ワンピースに包まれたしなやかな肢体の持ち主がエドワードの弟――現在は女性に姿を変え妹となったアルフォンスだと  誰も気がつかないだろう。 誰も、二人を血の繋がった兄妹だと思わない。  案外単純な世間は、こうして寄り添って立っているだけで「恋人同士」だと勝手に誤解してくれる。  が、世間の誤解は間違ってはいない。事実、エドワードとアルフォンスは兄妹でありながら恋人同士だった。  エドワードにとっては、嬉しい誤解という真実。 「恋人」と、甘い響きに酔いしれると同時に胸に落ちる罪悪感――背徳の恋に落ちた時から胸に澱み続けるそれは、  確かな幸せでは拭えずにエドワードを苛み続けている。 「ちょっと、重たいんだけど」 「流石にこのままキスするのは恥ずかしいだろ?」  俺は全然見られても構わねえがなぁ、と付け加えたエドワードは頭一つ分低いアルフォンスの目線に合わせて、意地悪い笑みを向けた。 「……キスは決定事項なんだ……」  こんな大通りの真ん中なのに? 非難の色を浮かべた大きな瞳で、アルフォンスはエドワードを見上げた。  アルフォンスの言う通り、ここはセントラルの大通りだった。しかも昼間の一番人が行き交う時間帯。  こうして二人が話している間にも、忙しく人々が目の前を通り過ぎていく。  幾分目立つ容姿をしている二人なだけあって、おおいに視線を集めているのだが。  目の前のアルフォンスは幸いにも気がついてはおらず、エドワードにとってぶしつけな視線はこの上なく不愉快でたまらない。  好奇な視線の中に混じる、アルフォンスへ向けられた欲望の視線に凶暴な殺意すら芽生える。  アルフォンス、お前はどれだけ男の前で無防備に身を晒しているのか、知らな過ぎる。  幾多の視線の前で、この少女は自分のものだと見せ付けたいという、凶暴な独占欲が湧き上がる。  許されるのなら、今すぐここで少女の肌に己を刻み込んでしまいたい。 「俺と会った運命を悔やむんだな」  甘く囁いてはそっと抱き寄せ、腕の中に閉じ込めた。真綿を包むような優しい抱擁もその実、力は強く。  細い肢体を逸らし、抱擁を受け止める少女は苦しげに呻いた。 「痛いって……早く離してよ」  抗議を示すように広い背中を叩くアルフォンスの抵抗も、エドワードにとっては他愛無いもので、大人と少女の力の差は歴然だ。  それでもしばらくアルフォンスの抵抗は止まなかったが、エドワードに離す気がないと知ると、諦めて身 体の力を抜いた。 「仕事はいいの?」  溜息を吐きながら、凭れかかってくるアルフォンスの身体は軽かった。若干、腕の力を緩めたエドワードはゆっくりと背中を撫でながら、口元を歪ませた。  こうしてこの少女が身を委ねるのも自分だけだと、エドワードだけでなく周囲にも知らしめた瞬間だった。 「ああ、キスする時間はあるぞ」  めいっぱいな、と囁きを落としつつ、押し付けられる肉体の柔らかさにエドワードは眩暈がしそうだった。  所々に触れる肉体の柔らかい感触は、まだ成長途中の少女ながらも女性としてのふくよかさを備え、雄の本能を刺激してやまない。  胸の脹らみを軍服越しに感じ、その感触に一気に熱が上昇していく。  まだ誰も触れていない処女の身体を、めちゃくちゃにしてしまいたい……!  いっそ狂気と言っていいほどの欲を秘めた眼差しが、目の前のアルフォンスを捉える――その目に映ったのは。  エドワードの激しい心内を知らない少女の、澄んだ空を思わせる無垢な瞳だった。  兄であり恋人でもあるエドワードを信じ、愛を疑わない真っ直ぐな眼差しの中には、自分を傷つけようとするエドワードの存在など微塵も知る由もない。  ズキリ、と鋭い痛みが胸を刺した。先程まで滾っていた熱が、急激に冷えていく。  愛しさのあまり、一歩間違えば狂気へと走ってしまいそうになる自分が、酷く醜く思えた。   純粋なまでの気持ちをエドワードへと向ける、アルフォンスの愛情が嬉しくも苦しい。  ただ甘い恋に浸れるなら、どれだけ幸せな事だろう? 愛を囁き、白い肌に唇を這わせ、アルフォンスをもっと深い所で感じて。  この手で少女を女にしたい……日々明確になっていく欲望が、エドワードを惑わせる。  だが、エドワードはその度に自らを戒めていた。  兄妹という縁の存在を前にしたら、どうしても一線を越えられなかった。  背徳の恋の行方なんて、ただ絶望が待つのみ。  誰にも祝福されない恋愛に溺れるなんて、今はよくてもこの先後悔しないとは限らない。  なにより――大切で愛しいアルフォンスを、不幸にしたくはなかった。ようやく手に入れた肉体で、世界中の誰よりも幸せになって欲しいと、常に願っていた。  それでも「恋人同士」という関係になったのは、エドワードの弱さかもしれない。  アルフォンスの存在なくして生きていられないのだ。手放せないなら、兄妹に苦しもうがこの存在を手にしてしまえばいい。  けして、その身に焦がれたって、手出し出来なくても。 「しないの? キス……」  無意識に誘う口元、それを裏切る無垢な瞳。  エドワードは、頭に乗せていた上着を深く被せ直した。 「アルフォンス……」  名を呼ぶと同時に、ごくりと、溜まった唾液を嚥下した。  深く被った上着からは小さい唇しか見えず、僅かに裾から覗く赤い唇がこんなにも色っぽいとは思わなかった。  軍服の向こうにはきっと、色気など入る余地のないまっすぐな眼差しがあるはずだ。  だがそれが隠された今は、ただエドワードの雄を煽る色にしか見えない。  不意に、再び湧き上がった熱情のままエドワードは口付けた。繰り返し繰り返し、触れるその感触を逃さないとばかりに、柔らかな唇に吸い付く。  もっと感じようと、強く引き寄せた腰。ぶつかるような乱暴さに、かすかな水音が重ねた唇から漏れた。  深く侵食する悦びがたまらない快感を生み出す。差し入れた舌が、ぬめる口内を蹂躙する事にこの上ない悦びを感じて蠢く。  苦しげに漏れる吐息さえも甘く、空気に溶け込んでいく前にエドワードは飲みこんだ。  絡ませた舌を吸い上げれば、ふるりと細腰が震えた。己の下半身に、少女が下半身を擦り付ける仕草は、快感を感じての無意識の行動だろう。  愛しい少女の名をキスの合間に呼べば、かすれた声で兄さんと返された。  この一瞬に目が醒めて、現実を見る――目の前の少女は確かに血の繋がった兄妹なんだと。  だが、この一瞬に背徳の快感を覚えたのも事実だった。兄妹なんてクソ食らえだ、と。 「愛してる」  相反する気持ちの中にある、確かな気持ち。  愛してると、兄妹という禁忌を犯した許しを請うように言葉にする。 「僕も、愛してるよ……」  上着から覗く口元が、幸せそうに微笑んでいた。  その微笑に「幸せか?」 と問いかけてしまいたかったが、臆病なエドワードには出来なかった。  どうして愛した人は兄妹なのだろう――何度考えたって、兄妹であることには変わりない。  少女を胸にきつく抱いて、エドワードは重なった唇を自嘲に歪ませた。  愛だけでどうにかなるなんて、世界の欺瞞だ。血の繋がった兄妹ならどうすればいい?  全てが欲しいとは言っていない、同じ血が流れる身体が欲しいだけなのだ。  欲しい、欲しい、欲しい。  アルフォンスだけが、欲しいのに――たった一つの願いは、罪。  今宵もまた、妄想の中で少女を犯す。  背徳の恋に、落ちている限り。                                                         「背徳」H17.10.27

 

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